お線香を上げる理由は?マナーや選ぶときのヒントを解説
お墓参りや弔問の席ではお線香を上げますが、なぜお線香を上げるのかをご存じでしょうか?
故人様へのご供養はもちろん、心身の浄化や仏様をお祀りする意味もあります。
また、お線香を上げる本数やおりんの鳴らし方は宗派によって異なるため、あらかじめ知っておくと慌てずに済みます。
この記事ではお線香のマナーや種類、特徴についても解説しています。
お線香を上げる目的
仏壇やお墓の前でお線香に火をつけて手を合わせる動作は、特に意識していなくても自然と身についているしぐさです。ここでは、お線香を上げる意味や理由について解説していきます。
香食
仏教においては、亡くなった方は香りを食べるといわれています。これを「香食(こうじき)」といい、特に善行を積んだ方はよい香りをいただけるのだそうです。
また、地域や風習にもよりますが、亡くなってから四十九日まで常にお線香を焚くこともあります。これは亡くなってから四十九日までは、亡くなった方がこの世とあの世をさまようため「食べるものに困らないように」という願いを込めて行うものです。
浄化
お線香の香りを嗅ぐと、どこか心がほっとするという方は多いでしょう。お線香には心身の穢れを祓う、浄化の意味があるといわれています。「故人様やご先祖様には心身を清めてから挨拶をする」という意味もあります。
仏法僧
仏法僧(ぶっぽうそう)とは、仏教において「三宝」と呼ばれています。
- 「仏」仏様
- 「法」仏様の教え
- 「僧」お坊さんや社会
この仏法僧にお線香のよい香りを届けることで、故人様のご供養につながると考えられています。ちなみにブッポウソウという鳥がいますが、この鳥は平安時代に仏教の聖地とされる森で発見され、以来「ブッポウソウ」と鳴くことと姿の美しさから尊ばれていました。
ですが、1000年以上のちの昭和初期に「ブッポウソウ」と鳴いていたのは、コノハズクという別の鳥であることが判明しました。以降、ブッポウソウは「姿のブッポウソウ」、コノハズクは「声のブッポウソウ」と呼ばれるようになりました。
荘厳
荘厳(しょうごん)とは、仏様を祀る場所を飾り整えることです。荘厳に必要なものは3つあります。
- 「香」お線香のこと
- 「生花」仏様の心を癒やす
- 「灯明」神仏にお供えする
これらを全て揃えることを「香華灯明(こうけとうみょう)を供養する」といいます。
仏様の智慧
お線香は心身の浄化だけでなく、その場を清める力もあります。そのため、お線香を焚いた場所に亡くなった方や仏様をお迎えすることで、仏様の智慧を教え広めることが出来るといわれています。
お線香の上げ方
お線香を上げるときの基本を、お仏壇とお墓参りの2つのケースで説明します。
お仏壇の場合
- 仏壇の前に座る
- 左手に数珠を持ち一礼して合掌
- お線香に火をつけ、香炉に立てる(寝かせる場合もある)
- おりんを鳴らして合掌
お墓参りの場合
- お墓に水をかける(かけない場合もある)
- 供花を飾る
- お供え物をあげる
- お線香に火をつけ、お線香立てに立てる
これが一般的な上げ方ですが、宗派によって立て方や本数は異なります。ですが、大体どの宗派でもお線香は1~3本あげています。お参り先の宗派が分からないときは、1本でもかまいません。
宗派 | お線香の本数 |
浄土宗 | 香炉の真ん中に1本立てる |
臨済宗 | |
日蓮宗 | |
曹洞宗 | |
天台宗 | 3本を逆三角形の形に立てる |
真言宗 | |
浄土真宗 | 1~3本を折って寝かせる |
日蓮正宗 | 1~3本を折らずに寝かせる |
分からないときや不安なときは、菩提寺や親戚、家族の方に聞いてみてください。
おりんを鳴らす理由と作法
おりんは邪念を祓ったり、お経の区切りとしたりする目的で鳴らします。故人様へのご供養や祈りを極楽浄土へ届けるという意味もあります。元々は禅宗のものでしたが、現在は宗派を問わず使われています。
おりんを鳴らすのは一般的に1~3回ですが、地域や宗派によって差があります。また、おりんを叩く場所が外側か内側という点も違います。ただしどの宗派でも、おりんの縁を叩くのは避けてください。おりんの縁を叩くと、りん棒が傷つく恐れがあります。
無宗教、もしくは特に地域の風習がないという場合は1~2回鳴らしてください。気になるときは菩提寺か、親戚や家族の方に聞いてみましょう。
お線香のマナー
お線香に火をつけるときは、灯明からいただくのがよいとされていますが、ライターやマッチでも大丈夫です。気になるときは、お仏壇用の落ち着いた印象のライターを使ったり、お坊さんに一言お断りを入れたりという配慮があれば心証を保てます。
お墓参りのときなら風防付きの仏具用ライターを使う方法もあります。
ですが、お線香や灯明の火を吐息で消すことは控えてください。仏教では悪い行いは体と口、心から出るとされています。そのため、火を消すときは手で仰いでください。火のついたお線香を上にして、すばやく振り下ろして消す方法もあります。
お線香を買うときのポイント
お線香には香りだけでなく、煙の少ないものやユニークなものまで種類があります。それぞれの特徴を把握して、故人様のご供養にふさわしいものを選ぶヒントにしてください。
白檀
サンダルウッドとも呼ばれる白檀は、最も広く知られた香木です。爽やかで甘みのある香りは緊張や不安を和らげるとされ、アロマテラピーのほかに扇子の骨や、匂い袋にも使用されています。
白檀の木は人工的な植林が難しく、また香りが生まれるようになるまで50年以上かかるといわれています。最上級の香りとして知られているのは、インドのマイソールで産出される老山白檀です。
沈水香木
沈香という呼び名が知られていますが、これは略称で正しくは「沈水香木(ぢんすいこうぼく)」といいます。この香りを一言でいえば「お寺の香り」です。白檀や花などから作られるものとは異なり、独特の香りがします。
東南アジアの熱帯地域で育つジンチョウゲ科の木に何らかの傷がつき、その傷を癒やすために樹脂が集まり成分が変質したものが香りの元です。自然のなせる業によってのみ生まれる香りのため、大変貴重です。
伽羅
沈水香木のなかでも最上級のものを伽羅(きゃら)といいます。沈香よりも更に限定された条件でのみ生まれる香りは、その経緯が現在でも解明されておらず「神によってのみ生み出せる香り」とまでいわれています。
時の最高権力者、貴族や高僧たちを魅了した伽羅は、今では入手困難なため価格が高騰しつづけています。
ユニークなお線香
亡くなった方は香りを食べるとされていますが、お線香の香りを故人様の好みに合わせてみてはいかがでしょうか?
近年はイチゴやコーヒー、石けんや花などの香りがするお線香が販売されています。なかにはお酒の香りのするものもあり、ユニークかつバラエティ豊富です。
故人様が甘いものを好んでいたなら甘い香り、花が好きな方なら花の香りなど、生前の好みに合わせたお線香を上げるのも立派な供養につながります。
少煙線香
少煙線香は、文字通り煙の少ないお線香です。マンションやアパートなどの煙探知機が気になる、または衣服に匂いがつくことが気になる方におすすめです。タイプによっては、ほぼ煙が出ないようなものもあります。
ご供養に必要なのは、煙ではなく香りです。少煙線香だからといって、ご先祖様や故人様に失礼だということはありません。自宅で毎日お線香を上げるという方も、少煙線香なら気兼ねなく使えるはずです。
香りで届ける感謝の気持ち
お香を焚くことを「香を聞く」といいます。これはかつての権力者たちが神仏へ祈りを捧げるとき、香りと共に願いが聞き届けられると考えていたためです。お線香を上げて故人様への供養をするときも、同じように香りと共に自分の心を届けられます。
感謝の気持ちや安らかでいてほしいという祈りなど、手を合わせているうちに色々な思いが浮かんでくるでしょう。そうした思いはきっと、故人様にも届いているはずです。
この記事が心を届けるのにふさわしい、故人様が喜んでくれるようなお線香を選ぶヒントになっていれば幸いです。